食物アレルギーがある方へお願いです。
食品表示法に指定されている食品と当事者の実態の比較を行うために、アンケートを行っております。
共同研究者 東京海洋大学 小林先生のHPにてアンケート調査を行っておりますので、ご協力お願いいたします。https://sites.google.com/site/kobayashiyukihiro2000/

 

アンケート調査およびアレルギー反応性に基づく魚類アレルゲンの抗原交差性

小林 征洋1, 2、呼格吉楽図2、今村 慎太郎3、濱田(佐藤) 奈保子1, 2

1東京海洋大学大学院 海洋生物資源学部門

2東京海洋大学大学院 食品流通安全管理専攻

3NPO法人アレルギーっこパパの会 理事長

*責任著者 E-mail: yukihiro@kaiyodai.ac.jp

 

本論文は下記の論文を翻訳したものである。引用に当たっては下記の論文を用いてください。

Kobayashi Y, Huge J, Imamura S, Hamada-Sato N. Study of the cross-reactivity of fish allergens based on a questionnaire and blood testing. Allergology International. In press. DOI: 10.1016/j.alit.2016.01.002.

 

【要旨】

背景:魚類のパルブアルブミン(筋肉の弛緩に関与するタンパク質)およびコラーゲン(繊維を形成する細胞外タンパク質)は抗原交差性(様々な魚種かんで共通してアレルギーを発症させる性状のこと)が確認されているアレルゲン(アレルギー誘起物質)である。医師達は様々な魚種がアレルギーを発症させることに気がついているものの、アレルギー原因食品の表示制度の魚における対象魚種は、日本ではサバ類とサケ類、韓国ではサバ類のみである。そこで本研究では、アンケート調査と血液検査によりアレルギーの原因魚種を明らかにすることを目的とした。

方法:アンケート調査はインターネットを介し、魚類アレルギー患者もしくはその家族を対象として行った。次に、26魚種に対するイムノグロブリンE(IgE;アレルギーの発症に関与する抗体)および抗原交差性を、魚類パルブアルブミンアレルギー患者の血清(8名)および魚類コラーゲンアレルギー患者の血清(8名)を用いて酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)および阻害ELISAによって調べた。

結果:アンケート調査の結果、88%の魚類アレルギー患者がサバ類とサケ類に加えてその他の魚も摂取することができなかった。更に、85%の患者もしくはその家族が、現在のアレルギー原因食品の表示制度に満足していなかった。ELISAの結果、魚類パルブアルブミンアレルギー患者から得た8名分の混合血清はほとんどの魚種にIgE反応性を示し、魚類コラーゲンアレルギー患者から得た8名分の混合血清は全ての魚種にIgE反応性を示した。阻害ELISAの結果、実験に使用した全ての魚種間で、パルブアルブミンまたはコラーゲンが抗原交差性(共通したアレルゲン性)を示した。

結論:ほとんどの魚類アレルギー患者は様々な魚種の摂取によりアレルギー症状を示すことが判明した。また、魚類パルブアルブミンおよび魚類コラーゲンは魚類アレルギーの原因物質であり、幅広い魚種間で抗原交差性を示すパンアレルゲンであることが分かった。そのため、日本および韓国における表示制度は見直しが必要である。

 

【序論】

 近年、魚類アレルギーの潜在的患者数の多さが注目されており、世界有数の魚類消費量を誇る我が国にとって憂慮すべき問題である。また、世界的に魚食依存度が高くなるにつれ魚類に起因するアレルギー疾患が国際社会で問題視されることは必至であり、魚類アレルゲンの基礎的研究の必要性が高まっている。魚類アレルギーは血中のイムノグロブリンE(IgE)抗体がアレルギー誘起物質(アレルゲン)に結合することで引き起こされる即時型アレルギーがほとんどである。そのため、魚類アレルゲンのIgE反応性に関する知見の蓄積が急務である。

北欧では古くから魚類アレルギー、特にタラ(Gadus callarias)によるアレルギーが問題となっており、魚類アレルゲンに関する研究はノルウェーにおいてタラを用いて開始された。その結果、タラのアレルゲンとしてパルブアルブミン(Gad c 1)が同定された[1,2]。パルブアルブミンは約10 kDaのカルシウムイオン結合性タンパク質であり、筋肉の弛緩に関与する。その後の研究で、サケ類、コイ、タイセイヨウサケ、タイセイヨウサバ、キハダ、オオカミウオ類、ヨーロッパウナギ、タイセイヨウクロマグロ、パーチ、オヒョウ、ヨーロッパヌマガレイ、タイセイヨウニシンなど、多くの魚種においても主要アレルゲンがパルブアルブミンであることが確認されている[3–8]。哺乳類の筋肉に比べ、魚類や両生類の筋肉中には比較的多量にパルブアルブミンが含まれている。また、パルブアルブミンは67–100%の魚類アレルギー患者が認識するアレルゲンであり[7,10,11]、様々な魚種間で共通したアレルゲン性(抗原交差性)を示すことも明らかにされている[12–17]。

2000年代初頭には、日本では魚類パルブアルブミンアレルギー患者だけではなく、魚類コラーゲンアレルギー患者も多いことが報告されている[18,19]。コラーゲンは筋肉、皮膚、骨などに多量に含まれている結合組織タンパク質である。数種の魚種のコラーゲンがアレルゲン性を持つことが明らかとされており、これらの魚種間で抗原交差性があることも確認されている[20]。

日本では食品衛生法関連法令の改正により、平成14年4月以降、加工食品に対するアレルギー物質の表示制度が開始された。7品目については表示を義務付けし、20品目については表示を推奨している。この表示制度においては、魚類はサケ類およびサバ類のみしか表示対象となってない。対象となるサケ類はサケ科のサケ属およびサルモ属に属するものであり、陸封性サケは表示対象外となっている。しかし、陸封性と遡河性の同種のサケは同じ遺伝子を持っており、いずれもパルブアルブミンが主要なアレルゲンであることが確認されている[21]。医療機関においてはサケやサバにアレルギーを持つ患者は様々な魚種に対してもアレルギーを示すことが周知の事実としてとらえられている。上述のようにサケやサバに限らず、魚類アレルギー患者はパルブアルブミンやコラーゲンの抗原交差性を介し、多くの魚種に対してアレルギーを発症するもの考えられる。

日本では数百魚種の魚が消費されているにもかかわらず、パルブアルブミンおよびコラーゲンに関して、これまで多くの魚種の抗原交差性を同時に調べた例は少ない。また、アレルゲンの表示制度がサバとサケのみに限定されていることも問題があると考えられる。そこで本研究では、アンケート調査によりアレルギーの原因となる魚種を調べるとともに、日本で一般的に消費されているそれぞれ26魚種を用いて、パルブアルブミンおよびコラーゲンにおけるアレルゲン性および抗原交差性を明らかにすることを目的とした。

 

【試料および方法】

アンケート調査

インターネットを介して匿名で魚類アレルギー患者およびその家族に対してアンケート調査を実施した。アンケート実施期間は2014年5月–2015年7月である。回答数は97件で、有効回答数は95件であった。

試料

ウルメイワシ(Etrumeus teres)、ニシン(Clupea pallasii)、マイワシ(Sardinops melanostictus)、シロザケ(Oncorhynchus keta)、ギンザケ(Oncorhynchus kisutch)、ニジマス(Oncorhynchus mykiss)、タイセイヨウサケ(Salmo salar)、マダラ(Gadus macrocephalus)、キンメダイ(Beryx splendens)、ツクシトビウオ(Cheilopogon heterurus)、サンマ(Cololabis saira)、ウスメバル(Sebastes thompsoni)、アカムツ(Doederleinia berycoides)、ブリ(Seriola quinqueradiata)マアジ(Trachurus japonicus)、イサキ(Parapristipoma trilineatum)、マダイ(Pagrus major)、シログチ(Pennahia argentata)、メカジキ(Xiphias gladius)、アカカマス(Sphyraena pinguis)、カツオ(Katsuwonus pelamis)、サワラ(Scomberomorus niphonius)、マサバ(Scomber japonicus)、ゴマサバ(Scomber australasicus)、メバチ(Thunnus obesus)、キハダマグロ(Thunnus albacares)の26魚種を実験に用いた。新鮮な魚を購入後、直ちに実験に供した。ただし、ウルメイワシ、シロザケ、シログチおよびメバチはパルブアルブミンの解析のみに用い、ニシン、マダラ、ブリおよびサワラはコラーゲンの解析のみに用いた。これらに加え、シストとともにアニサキス(Anisakis smplex)の第III期幼虫をスケトウダラ(Gadus chalcogrammus)の肝膵臓の表面から採取した。シストをBier et al.[22]の方法に従ってペプシンで消化した後、生理食塩水で洗浄して使用するまで–20℃で保存した。

抽出液の調製

魚肉フィレの場合は、皮、骨および血合い筋を取り除き、普通筋のみをよくミンチにして実験に用いた。丸魚の場合は、頭、鰭、皮、骨、全ての内臓および血合い筋を取り除き普通筋のみをよくミンチにして実験に用いた。パルブアルブミンの解析には以下の抽出液を用いた:各魚種の魚肉に4倍量の150 mM NaCl添加10 mMリン酸緩衝液(pH 7.0; PBS)を加えてホモジナイズをした。ホモジネートを100℃で10分間加熱後、遠心分離(16000×g、5分間)に供して上清を回収し、使用するまで–20℃で保存した。一方、コラーゲンの解析には以下の抽出液を用いた:魚肉に4倍量の7 M尿素および2 Mチオ尿素添加50 mM Tris-HCl(pH 8.0)を加えてホモジナイズした。ホモジネートを遠心分離(16000×g、5分間)に供して上清を回収した。抽出液を同緩衝液で10倍に希釈し、凍結せずに使用するまで4℃で保存した。

アニサキス抽出液の調製では、まず幼虫を4倍量のPBSでホモジナイズした。遠心分離(16000×g、5分間)に供して上清を回収し、使用するまで–20℃で保存した。

パルブアルブミンおよびコラーゲンの精製

パルブアルブミンはShioni et al.[8]の方法に従ってマサバ普通筋から精製した。コラーゲンはMiller and Rhodes[23]の方法に従ってマサバの皮より精製した。タンパク質濃度はLowry et al.[24]の方法に従って、牛血清アルブミンを標準品として定量した。

血清

本論文では医療機関で魚類アレルギーと診断された16名から提供を受けた血清を用いた。全ての患者は日本人である。まず始めに、全ての患者は医師の診察を受け、魚類アレルギーであると診断された。次に、全ての患者はImmunoCAP(Phadia, Uppsala, Sweden)でテストを受け、様々な魚に対してクラス2~6の反応を示した。また、全ての患者はスキンプリックテストを受け、様々な魚に対して陽性反応を示した。患者血清は予めELISAにより魚類パルブアルブミン特異的アレルギー患者は精製マサバパルブアルブミンにIgE陽性を示し、かつ精製マサバコラーゲンにはIgE陽性を示さないことを確認した。また、魚類コラーゲン特異的アレルギー患者は精製マサバコラーゲンにIgE陽性を示し、かつ精製マサバパルブアルブミンにはIgE陽性を示さないことを確認した。全ての血清は使用するまで–20℃で凍結保存した。8名の魚類パルブアルブミン特異的アレルギー患者より採取した血清を等量ずつ混合したプール血清、8名の魚類コラーゲン特異的アレルギー患者より採取した血清を等量ずつ混合したプール血清、および10名の健常者より採取した血清を等量ずつ混合したプール血清(コスモバイオ、東京)を実験に用いた。全ての患者からはインフォームドコンセントを得ている。なお、本研究は東京海洋大学倫理委員会の承認を受け(許可番号 26-002)、血清の取り扱いおよび実験は文部科学省および厚生労働省の疫学研究に関する倫理指針ならびに東京海洋大学における疫学研究の実施に関する規則に従って実施した。

 

Enzyme-linked immunosorbent assayELISA

各試料の抽出液を固相化緩衝液(25 mM炭酸ナトリウム緩衝液、pH 9.5)で魚肉に対する最終希釈倍率が5000倍となるように調整した後、96穴平板ポリスチレンプレート(MaxiSorp; Nunc、Thermo Fisher Scientific、Hudson、NH、USA)に50 l加えた。プレートを37℃で2時間インキュベートした固相化後、0.05% Tween 20添加PBS(PBST)で洗浄した。各ウェルに300 lの20% Blocking One(ナカライテスク、京都)を加え、4℃で一晩インキュベートし、非吸着部のブロッキングを行った。次に、患者血清を5% Blocking One-PBSTで1:50の比率で希釈して50 l加え、37℃で2時間インキュベートした後にPBSTで洗浄した。さらに、5% Blocking One-PBSTで希釈したHRP標識ヤギ抗ヒトIgE抗体(400 ng/ml; Kirkegaard & Perry Laboratories、MD、USA)を50 l加え、37℃で1時間インキュベートした後にPBSTで洗浄した。50 lのELISA POD基質TMBキット、popular(ナカライテスク)を加え、遮光して37℃で10分間インキュベートした。各ウェルに2 N硫酸を50 l添加して酵素反応を停止させた後、450 nmにおける吸光度をマイクロプレートリーダーで測定した。なお、各プレートに試料の代わりに固相化緩衝液のみを用いて同様の操作を行ったブランクも用意した。測定は各3ウェルずつ実施し、各試料の吸光度からブランクの吸光度を差し引いた値を各試料の値として示した。

 

【結果】

 アンケート調査における患者の内訳

アンケート調査における回答の内訳を表1に示す。回答者が本人および家族の場合がそれぞれ66%および34%であった。患者は男性が53%、女性が42%であった。患者の年齢は1–5歳および6–11歳がそれぞれ32%および25%で、20歳代、30歳代および40歳代がそれぞれ13%、14%および7%であった。その他の年齢は4%未満であった。医師の診断がある患者が72%で、診断はないがアレルギーがあると答えた患者が28%であった。

 

アンケート調査における魚アレルギーの頻度と症状

魚類アレルギーの発症の頻度と症状を表2に示す。「アレルギーは魚を食べるといつも出ますか?」の質問に対し、「いつも出る。」および「魚の種類で出るものと出ないものがある。」との回答がそれぞれ48%および32%で全体の過半数を占めた。その他の回答は9%未満であった。

28%が医師の診断はないが魚アレルギーであると回答した(表1)。これらの回答者のうち「アレルギーは魚を食べるといつも出ますか?」の質問に対して「いつも出る。」と回答したのは41%(全患者の12%; 表1)で、彼らは真の魚アレルギー患者であると予想される。それゆえ、84%の患者(72%の医師の診断を受けた患者 + 12%の医師の診断はないが常に魚アレルギーを経験している患者)はアニサキスアレルギー(海産魚介類に寄生しアニサキスアレルギーの原因となる)またはアレルギー様食中毒(血合い筋に豊富にあるヒスチジンが最近によってヒスタミンに変換されて引き起こされるアレルギーに類似した症状を呈する疾患)ではないと予想された。残りの17%はアニサキスアレルギーまたはアレルギー様食中毒である可能性は否定できない。

経験したことのある症状としてはじんましん、皮膚のかゆみ、口腔アレルギー症候群(口や喉のイガイガ感やかゆみ)がそれぞれ62%、61%および52%で半数以上の患者で経験がみられた。症状が重いとみられる呼吸器症状(息苦しさ、喘息または呼吸困難)は32%の患者が経験していた。腹痛および嘔吐などの消化器症状はいずれも約20%の患者で認められた。それ以外の回答は10%未満であった。

 

アンケート調査における原因魚種、魚肉製品、アレルギー物質の表示制度に関する回答

アレルギーの原因魚種についての回答を表3に示す。「(おそらく)全ての魚」と回答した患者および個別の魚種には回答せず「その他」を選択した患者が42%および34%で個別の魚種を選択した患者と比較して圧倒的に多かった。アレルギー物質の表示制度の対象となっているサバおよびサケを選択した患者はそれぞれ22%および20%であった。その他の魚種を選択した患者はアジが24%、イワシが19%、タラが16%、サンマが13%およびマグロが11%であり、それ以外は8%未満であった。これらの回答を再集計したところ、サバおよび/またはサケのみにアレルギーを起こす患者は12%に過ぎず、88%の患者が様々な魚種を摂取することができないと回答した。

調理の有無で摂取可能か質問したところ、いずれの調理をしても基本的には食べることができない患者が61%であった。練り製品(かまぼこ、ちくわ、はんぺん、さつまあげ、つみれなど)を摂取できる患者は47%であった。

「加工食品は原材料欄にサバとサケを表示することが奨励されています。サバとサケに限らず、全ての魚を表示するべきだと思いますか?」との質問に対し「全ての魚を表示するべきである。」との回答が85%で「表示はサバとサケだけで十分である。」との回答10%を大きく上回った。

 

ELISA

16名の魚類アレルギー患者および健常者血清の精製マサバパルブアルブミン、精製マサバコラーゲンおよびアニサキス抽出液に対するIgE反応性を調べた(Fig. 1)。患者No. 1–8は精製マサバパルブアルブミンにIgE陽性反応を示したが、精製マサバコラーゲンおよびアニサキス粗抽出液には反応を示さなかった。残りの患者8名(No. 9–16)は精製マサバコラーゲンにIgE陽性を示したが、精製マサバパルブアルブミンおよびアニサキス粗抽出液には反応しなかった。なお、健常者プール血清は何れの試料にも反応を示さなかった。それ故、パルブアルブミン単独感作である前者8名の血清は等量ずつ混合し、混合血清としてパルブアルブミンアレルギーの解析に用いた。一方、コラーゲン単独感作の後者8名の血清は等量ずつ混合し、混合血清としてコラーゲンアレルギーの解析に用いた。

22種魚類の加熱抽出液に対する魚類パルブアルブミン特異的アレルギー患者(No. 1–8)の混合血清のIgE反応性を図2Aに示す。魚種によって著しくIgE反応性が異なった。ウルメイワシ、キンメダイ、ツクシトビウオ、ウスメバル、マアジおよびアカカマスに対して非常に強いIgE反応性を示した。シロザケ、ギンザケ、メカジキ、カツオ、メバチおよびキハダマグロに対してはIgE反応性が認められなかった。健常者はすべての魚種に反応を示さなかった(図2B)。

魚類パルブアルブミン特異的アレルギー患者に対して、精製マサバパルブアルブミンを阻害剤として、各種魚類抽出液に対するIgE反応性の阻害を阻害ELISAで調べた(図1C)。ただし、IgE反応性がみられなかったキハダマグロ、メバチ、カツオ、メカジキ、シロザケおよびギンザケは阻害ELISA実験から除外した。シログチが59%の阻害率を示し、他の魚種においては66%–99%の高い阻害率を示した。実験に供した16魚種全ての間で抗原交差性(共通したアレルゲン性)が確認された。

22種魚類の加熱抽出液に対する魚類コラーゲン特異的アレルギー患者(No. 9–16)のIgE反応性を図3Aに示す。魚類パルブアルブミン特異的患者の場合と異なり、魚類コラーゲン特異的アレルギー患者はIgE反応性を示さない魚種が認められなかった。ニジマス、タイセイヨウサケ、サワラ、カツオ、キハダマグロで非常に強いIgE反応性が認められた。マダラ、キンメダイ、アカムツは他の魚種と比較してやや反応性が低かった。健常者はすべての魚種で吸光度0.1未満であり、IgE反応性ないと判断した(図3B)。

魚類コラーゲン特異的アレルギー患者に対して、精製マサバコラーゲンを阻害剤とし、各種魚類のIgE反応性の阻害を阻害ELISAにより調べた(図2C)。マダラが48%およびキンメダイが57%の阻害率を示し、その他の魚種においては阻害率63%–83%の高い値を示した。以上から、マサバコラーゲンと22種魚類の抽出液との間に抗原交差性が認められた。

 

【考察】

本研究ではアンケート調査をもとに魚類アレルギーの原因魚種を明らかにするとともに、患者血清を用いたELISAおよび阻害ELISAによって実際に陽性反応を示す魚種の確認を行った。アンケート調査は主にアレルギーの子供を持つ団体(NPO法人アレルギーっこパパの会)を介して周知を行ったため、患者の年齢層は幼児、小学生およびその親世代が多かった。厚生労働省の調査で(XX)は、魚類アレルギーは年齢が上がるに連れて、症例数が多くなる傾向がある。今回はアレルギーの子を持つ親が回答したケースが多いと予想されるため子供で症例数が多く、実際には潜在的な成人の魚類アレルギー患者の比率は今回の結果よりも多いものと予想される。多くの患者が魚の摂取で恒常的にアレルギーを発症していることも明らかとなった。症状はじんましん、皮膚のかゆみ、口腔アレルギー症候群が非常に多かったが、重篤になるケースが多い呼吸系症状の32%と比較的多いことから、魚類アレルギーの重大性は無視できない。

現在日本では、加工食品に対するアレルギー物質の表示制度が魚についてはサバおよびサケのみとなっている。これは厚生労働省が実施したアンケート調査が魚を魚類としてひとくくりにせず、個別の魚種について回答を求めたために、対象となる魚種が限定される結果となってしまったものと考えられる。アンケート調査においてはサバおよび/またはサケのみにアレルギーを示す魚類アレルギー患者は全体の12%に過ぎず、また加工食品へのアレルギー物質の表示はサバとサケだけで十分であると考える患者10%にとどまっていた。約9割の患者が現在のサバとサケのみに限定されている現行の表示制度に不満を持っており、実際にこれらの患者は様々な魚種に対してアレルギーを発症することも明らかとなった。

17%の患者が魚類アレルギーではなく、アニサキスアレルギーまたはアレルギー様食中毒を経験している可能性がある。これらの患者はサバまたはサケのみを原因種としており、約半数が自己診断もしくは家族による診断である。サバはアレルギー様食中毒の主な原因種であり、サケは代表的なアニサキスアレルギーの原因種である。

魚類アレルゲンとしてパルブアルブミンとコラーゲンが同定されている。パルブアルブミンはあらゆる魚種でIgE陽性が認められお互いに共通するアレルゲン性(抗原交差性)も数多く報告されている[12–17]。一方、コラーゲンについては研究例が非常に乏しく、ウナギ、キンメダイ、マサバ、カツオおよびメバチマグロでアレルゲン性および抗原交差性が認められているに過ぎない[20]。魚類パルブアルブミン特異的アレルギー患者を用いたELISAの結果22魚種のアレルゲン性は魚種によって著しく異なった。特筆すべきはこれらの患者においてはアレルギー物質の表示制度の対象となっているサケおよびサバが全く反応しないか弱い反応しか示さないことである。また、阻害ELISAの結果から陽性反応が認められた16魚種についてはいずれも抗原交差性を示すことが明らかとなり、これまでの報告の通りパルブアルブミンは魚類のパンアレルゲン(幅広い交差性を有するアレルゲン)であることが再確認された。

一方、魚類コラーゲン特異的アレルギー患者を用いたELISAでは一律に実験に供した22すべての魚種でIgE陽性反応が認められた。興味深いことに魚類パルブアルブミン特異的アレルギー患者に対する反応性が弱かったニジマス、タイセイヨウサケ、サワラ、カツオ、キハダマグロが、魚類コラーゲン特異的アレルギー患者において強い反応を示すことが明らかとなった。また、実験に供したすべての魚種で抗原交差性が認められ、コラーゲンもパルブアルブミンと同様に魚類のパンアレルゲンであることが判明した。

パルブアルブミンのアレルゲン性は高い耐熱性を示すことが知られている[1,25,26]。また、コラーゲンのIgE反応性も耐熱性があることが分かっている[27]。実際、アンケート調査でもいずれの調理をしても魚を摂取できない患者は過半数に上る。一方で、魚肉練り製品はアレルゲン性が低いことが分かっている[28]。これは、製造工程における水さらにおいて水溶性のパルブアルブミンが除去されるためである[28]。実際、アンケート調査では47%の患者が魚肉練り製品を摂取できると回答しており、魚類パルブアルブミン特異的アレルギー患者に対しては、有望な低アレルゲン化食品であるといえる。

日本では数百魚種の魚類が消費されている。本研究では26魚種のみの解析にとどまったが、魚類アレルゲンであるパルブアルブミンとコラーゲンがパンアレルゲンであることが判明し、消費されているすべての魚がアレルギーを惹起する危険性があると予想された。しかし、コラーゲンがあらゆる魚種で一律に陽性反応を示すのに対し、パルブアルブミンは陽性反応を示さない魚種も確認された。パルブアルブミンは魚種によって含有量が著しく異なり、アレルゲン性はパルブアルブミンの含有量に依存することが分かっている[15,29,30]。パルブアルブミンの含有量が多くの魚種で明らかになり、かつ医療現場において原因アレルゲンの特定が容易にできるようになれば、医師は魚類パルブアルブミン特異的患者に対して、適切な食事指導ができるものと予想される。

日本ではアレルギー物質の表示制度の対象はサバおよびサケのみであり、韓国においてはサバのみである。しかし、本研究によりほとんどの患者がサバおよびサケ以外の魚の摂取でもアレルギーを引き起こす危険性があることが判明したため、今後、表示制度の見直しが必要であるといえる。

 

【謝辞】

本研究を行うに当たり、貴重な魚類アレルギー患者の血清を御提供頂きましたはらだ皮膚科クリニックの原田晋先生、日本医科大学の藤本和久先生、篠原理恵先生、三神(松田)絵里奈先生、信州大学の三宅知美先生、横浜市立大学附属病院の相原道子先生、中河原怜子先生に厚く感謝いたします。本研究は科学研究費助成事業(30511753)の助成を受けたものである。

 

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表1.患者の特徴

回答数 比率(%)
患者 本人 63 66.3
家族 32 33.7
性別 53 55.8
42 44.2
年齢 0歳 0 0.0
1–5歳 30 31.6
6–11歳 24 25.3
12–19歳 3 3.2
20歳代 12 12.6
30歳代 13 13.7
40歳代 7 7.4
50歳代 3 3.2
60歳代 2 2.1
70歳代 1 1.1
80歳以上 0 0.0
医師の診断はありますか? はい 68 71.6
いいえ 27 28.4

 

表2. 魚アレルギーの頻度と症状.

質問/答え 回答数 比率(%)
アレルギーは魚を食べるといつも出ますか?
・いつも出る。 46 48.4
・体調が悪いと出る。 6 6.3
・たいていの魚は普段は食べられるが、たまに出ることがある。 1 1.1
・魚の鮮度が悪いと出る。 4 4.2
・魚の種類で出るものと出ないものがある。 30 31.6
・その他 8 8.4
魚を摂取した際に経験のある症状は何ですか?(複数回答可)
・じんましん 59 62.1
・紅斑 31 32.6
・皮膚のかゆみ 58 61.1
・胃痛 9 9.5
・腹痛 19 20.0
・嘔吐 20 21.1
・下痢 15 15.8
・口やのどにイガイガ感やかゆみ 49 51.6
・目の充血 6 6.3
・くしゃみ、鼻水、鼻づまり 14 14.7
・息苦しさ、喘息または呼吸困難 30 31.6
・血圧低下 9 9.5
・その他 0 0.0

 

表3. 原因魚種、魚製品、アレルギー物質の表示制度に関する質問.

質問/答え 回答数 比率(%)
どの魚にアレルギーがありますか?(複数回答可)
・(おそらく)全ての魚 40 42.1
・サバ 22 23.2
・サケ 20 21.1
・マグロ 10 10.5
・カツオ 7 7.4
・サンマ 12 12.6
・タラ 15 15.8
・アジ 23 24.2
・イワシ 18 18.9
・カジキ 7 7.4
・ウナギ 4 4.2
・ニジマス 4 4.2
・その他 32 33.7
上記回答の再集計
・(おそらく)全ての魚 40 42.1
・全ての魚ではないがサバ・サケ以外も食べられない。 44 46.3
・サバまたは/およびサケのみ。 11 11.6
調理することにより魚を食べることができますか?
・いずれの調理をしても、基本的には食べることができない。 58 61.1
・生魚は食べられないが、十分に加熱すれば食べることができる。 12 12.6
・その他 25 26.3
練り製品(かまぼこ、ちくわ、はんぺん、さつまあげ、つみれなど)は食べることができますか?
・食べることができる。 45 47.4
・食べることができない。 33 34.7
・その他 17 17.9
加工食品は原材料欄にサバとサケを表示することが奨励されています。サバとサケに限らず、全ての魚を表示するべきだと思いますか?
・全ての魚を表示するべきである。 81 85.3
・表示はサバとサケだけで十分である。 9 9.5
・その他 5 5.3

*「(おそらく)全ての魚」を選択した場合は個別魚種をおよびその他を選択できない

図1

図1. 16名の魚類アレルギー患者の精製マサバパルブアルブミン, 精製マサバコラーゲンおよびアニサキス粗抽出液に対するイムノグロブリンE(IgE)の反応性を示した酵素結合免疫吸着法(ELISA). Cは10名の健常者から得られた混合血清をしめす. データは平均値+標準偏差で示した.

図2

図2. パルブアルブミン特異的アレルギー患者から得られた混合血清の22魚種に対するイムノグロブリンE(IgE)の反応性. データは平均値+標準偏差で示した. 患者混合血清(A)および健常者混合血清(B)は酵素結合免疫吸着法(ELISA)に供した。混合患者血清の16魚種に対するIgE反応性の精製マサバパルブアルブミンによる阻害(C).

 

図3

図3. コラーゲン特異的アレルギー患者から得られた混合血清の22魚種に対するイムノグロブリンE(IgE)の反応性. データは平均値+標準偏差で示した. 患者混合血清(A)および健常者混合血清(B)は酵素結合免疫吸着法(ELISA)に供した。混合患者血清の22魚種に対するIgE反応性の精製マサバコラーゲンによる阻害(C).

食物アレルギーがある方へお願いです。
食品表示法に指定されている食品と当事者の実態の比較を行うために、アンケートを行っております。
共同研究者 東京海洋大学 小林先生のHPにてアンケート調査を行っておりますので、ご協力お願いいたします。https://sites.google.com/site/kobayashiyukihiro2000/